喜び
難しい動作をしなくてはならないとき、幾度もやり直し、粘り強く繰り返していると、いつしかすっとできるときが来る。やがて「ゆとり」をもって同じことができるようになり、ますます巧みになってゆく。すべてが順調に、快調に進む。練習や訓練によって、最初の「できなさ」を乗り越えたときにも、同じことが起こる。体が軽くなり、自分に応えてくれる。喜びとは、成し遂げた結果を満足げに眺めることではなく、勝利の感覚や、成功したという満足感とも違う。喜びとは、のびのびとした状態でエネルギーが発揮されていることのしるしであり、自己が自由に展開しているという実感だ。すべてがたやすくできる。喜びとは、活動そのものであり、難しかったこと、時間のかかったことを、軽やかに成し遂げられ、精神と身体の力を存分に使いこなせている感覚だ。何かを発見すれば思考の喜びが生まれ、何かを楽にこなせるようになれば身体の喜びが生まれる。だからこそ、喜びは快楽とは違い、反復によってむしろ増大し、より豊かに、より深くなるのだ。
フレデリック・グロ「歩くという哲学」