「たしなむ」ということ
「たしなむ」という言葉は、不思議なやまと言葉である。
「お酒は召し上がりますか」と尋ねられて、「たしなむ」程度ですと答えたとすると、酒は飲むが、ほどほどに飲む、という意味である。
「たしなむ」のは、それらを好んで楽しみながらも、おのずと節制のきいた「たしなみ」が身につくようなものとして営まれているからである。
そしてまた、「たしなむ」という励み方・努め方は、無理して・我慢して、といった、いやいやながらする刻苦精励の在り方ではない。そのこと自体を「好みながら励む」ところに、あるいは(励みながら好む」ところに、この言葉の独特の語感がある。
だからこそ長続きもするし、またおのずと成長・上達もするのである。「好きこそものの上手なれ」とは、そのことを物語っている。
東京大学名誉教授 竹内整一